映画イエロー・ハンカチーフ」

蘇えった名作「イエロー・ハンカチーフ」

北海道の広大な大地。真っ赤なファミリア。そして青空にはためく沢山の黄色いハンカチ。これだけ言えば映画好きの人はもちろんのこと、それほど映画に興味のない人でも何のことか分かるでしょう。そう、あの名作「幸福の黄色いハンカチ」です。今から40年近く前の1977年に公開された映画ですが、沢山の人がこの作品に触れ、涙したことと思います。高倉健や倍賞千恵子といったベテラン俳優から、映画初主演となる武田鉄矢、さらに脇役には桃井かおりや、「男はつらいよ」シリーズでお馴染みの渥美清も出演しています。これ以上ないほどの豪華出演者に加え、シンプルながら心に深く訴えかけるストーリーが、日本国内はもちろんのこと海外でも高く評価されました。また、この映画を見たことが無い人でも、刑期を終えて出所した男が偶然出会った若い男女と共に妻のもとへ向かうというおおよそのストーリーや、あの有名なラストシーンはご存知のことと思います。それくらい国民的な映画なのです。そしてこの映画が、2008年にアメリカでリメイクされました。今回はそのリメイク作品や、オリジナル作品に関連する山田洋次監督の映画をご紹介します。

映画「イエロー・ハンカチーフ」

映画「イエロー・ハンカチーフ」は、2008年に公開されたアメリカ映画です。この映画は、そのタイトルからも分かる通り、1977年に公開された山田洋次監督の名作「幸福の黄色いハンカチ」をリメイクしたものです。基本的な設定はオリジナルと同じとなっていますが、時代設定は現代のアメリカに置き換えられています。主演は「蜘蛛女のキス」でアカデミー主演男優賞を受賞したウィリアム・ハートが演じました。また、オリジナル版でヒロインを演じた桃井かおりがカメオ出演しています。

ストーリー(ネタバレ)

出会い

15歳の少女マーティーンは失恋して傷心するなか、自称先住民で写真好きという変わった青年ゴーディにドライブに誘われ、半ば自暴自棄にそれに応じます。マーティーンとゴーディは、途中ミシシッピー川の畔にたたずむブレッドと出会い、ひょんなことから彼を車に乗せ、3人は共に旅をすることになったのでした。ブレッドは寡黙で自分のことをあまり話そうしませんでした。土砂降りの雨に見舞われて車を停車すると、突如ブレッドは車から降り、雨の中テントに体を包んでただ雨を見つめています。その横顔はどこか悲しげでした。その夜、安宿に泊まることになった3人。そこでブレッドは一通の手紙を投函します。部屋ではゴーディとマーティーンが同じベッドで寝る事になりました。しかしゴーディは眠れないからキスしてほしいとマーティーンに迫ります。マーティーンはしぶしぶそれに応じますが、こらえきれなくなったゴーディはマーティーンに襲い掛かろうとします。騒ぎを聞いてバスルームから出てきたブレッドに凄まれたゴーディは、結局バスルームで寝る事になってしまいました。ブレッドは自身の妻・メイとの出会いを思い出していました。彼が作業員だった頃、メイは工具販売店を1人で切り盛りしていました。船の修理がきっかけで彼女と交際するようになった二人でしたが、初めてのキスの後で性急に関係を結ぼうとしたため、気性の激しいメイに拒絶されてしまったのでした。

ブレッドの秘密

結局移動の足がないため、またゴーディの車に同乗することになったブレッドとマーティーン。あるパーキングでゴーディが隣に停車していた車上生活者の家族の車に些細な傷をつけてしまい、粗暴な男からゴーディは殴り掛かられてしまいます。それを見たブレッドは逆に男を叩きのめします。とっさにブレッドが車のハンドルを握り3人は逃走しますが、これが元で通報されてしまいブレッドは逮捕されます。実はブレッドは6年間の刑期を終えて刑務所から出所したばかりなのでした。服役中に免許が失効していた事もあり、ゴーディとマーティーンは無関係だと言ってブレッドはひとり連行されてゆきます。しかし、連行された警察署で顔なじみの人情味ある巡査部長に再会し、彼の温情でブレッドは早々に釈放されました。

それぞれの過去

ふたたびゴーディとマーティーンとの旅に出るブレッド。そこで彼は少しずつ自分の過去を話し始めます。14歳の時に悪い仲間に認められようと、高価な競争馬を野に放って少年院送りになり、2度目はドラッグで刑務所入りしたこと。立ち直ろうとそれまでの人間関係を断ち切って最南部の町に行き、そこで妻・メイと出逢ったこと。メイは何度も男に裏切られており、ブレッドのことも初めは信用していなかったのですが、彼の朴訥なプロポーズに心動かされ、激しい雨の降る夜に二人はついに結ばれたのでした。やがてメイが妊娠し、初めて家庭が持てることに喜ぶブレッドでしたが、幸せは長くは続きませんでした。間もなくメイが流産してしまい、彼女が過去に中絶したことが影響していることを知ってしまうのでした。一方、旅を続ける3人は、ゴーディが鹿をはねてしまった動揺で運転が出来なくなった為、廃屋で一夜を過ごすことに。ブレッドは回想を続けます。メイとの間に諍いが絶えなくなり、町の酒場でメイがブレッドの態度を激しく罵ります。店の外でメイに掴み掛るブレッドを見て仲裁に入った男をブレッドが跳ね除けると、運悪く男は消火栓に頭を強く打ち付けて死んでしまいます。その男には幼い子どもがおり、ブレッドは6年の刑期を下されてしまいます。面会に来たメイにブレッドは署名済みの離婚届を差し出すのでした。ブレッドの話を聞き終えると、ゴーディは人生の無常に涙するのでした。ゴーディは父の愛人だった先住民出身の養母に先住民保護区で育てられ、彼らの文化しか知らなかったことを明かします。最初はゴーディを気味悪がっていたマーティーンでしたが、彼の純粋な人柄に触れ少しずつ打ち解けていくのでした。

再会と別れ

旅の途中で立ち寄ったカフェで、ブレッドはマーティーンとゴーディが肩を寄せ合って座る姿を見つけます。二人の仲を察してニヤリと笑ったブレッドは、安宿で出した手紙のことを話し始めます。手紙には、もし会ってくれるなら、昔子供を授かったときに船に張った黄色い帆を一杯に張って欲しい。近くまで見に行き、もし帆が無ければ黙って立ち去り2度と連絡しない、と書いていました。手紙は出したものの弱気になり、帆を確認するのを尻込みするブレッドをけしかけてメイの所まで送るゴーディとマーティーン。しかし家に着くとそこに船は無く、既に他人が住んでいたのです。悲観的になる3人でしたが、鉄橋近くの岸部に大量の黄色いハンカチーフを掲げている船を発見します。メイの船でした。何も言わず抱き合う2人。ゴーディとマーティーンも互いにキスをして、ブレッドたちに手を振って別れを告げるのでした。

キャスト

  • ブレッド・ハンセン・・・ウィリアム・ハート
  • メイ・ハンセン・・・マリア・ベロ
  • マーティーン・・・クリステン・スチュワート
  • ゴーディ・・・エディ・レッドメイン
  • モーテルの女主人・・・桃井かおり

スタッフ

  • 監督・・・ウダヤン・プラサッド
  • 製作・・・アーサー・コーン
  • 製作総指揮・・・リリアン・バーンバウム
  • 原作・・・ピート・ハミル
  • 脚本・・・エリン・ディグナム
  • 撮影・・・クリス・メンゲス
  • 編集・・・クリストファー・テレフセン
  • 音楽・・・イーフ・バーズレイ、ジャック・リヴジー

日本版と同じところ・違うところ

前科者とイケてない若者、自信のないオンナとの車道中、出所後のビール、若者のレイプ未遂、無免許運転での逮捕、警察署にレバーフライ(日本版ではレバニラ定食)の配達、人情味のある警官の恩情、前科者妻の流産とそれを原因とした収監、若者と女の和合、大量のハンカチーフを張り夫の帰りを待つ妻など、基本的なフォーマットはかなり細かく日本版の流れに沿っています。変更点としては以下のようなことが上げられます。

  • 前科者の妻は日本版のように黙って夫に従う貞淑で大人しい女ではなく、自立した仕事を持ち、夫でもくってかかる気性の強い女性という設定。
  • 同乗者の男は先住民に育てられ、パソコン修理業を生業とする等、細かく設定されている。
  • 同乗者の女は就業していない未成年になっており、日本版より多感なキャラクターになっている。
  • 食事情の違いから、前科者が出所後に定食屋で貪るように食べるシーンが無い。
  • 男女が野外で小用を足すシーンが無い。
  • 殺す相手がチンピラから善良な市民になっている。

感想

「幸福の黄色いハンカチ」は、大好きな映画でもう何度も何度も観ています。それをアメリカでリメイクするとのことで、期待半分、不安半分で観に行きました。高倉健のあの男らしい感じとか、倍賞千恵子の控えめな妻の感じをアメリカでどのように表現するのかが非常に気になっていたのですが、結論から言えば以外にもよく出来たリメイク作品となっていました。オリジナルの日本版に忠実に、なおかつアメリカが舞台ということで不自然にならないようにきちんと改編されていて、とても自然に心に入ってくるストーリーになっていました。主人公のブレッドが麻薬で捕まっていたり、妻が夫にも遠慮なしに言い返す女性というのが現代のアメリカらしさが出ていてよかったと思います。また、この夫婦がいろんな過去を背負ってぎりぎりの所で生活している感じもよかったです。お互いにもうこの人しかいないとわかって居ながらもつい諍いを起こしてしまうという点は共感できました。オリジナルとは違ってブレッドが殺してしまう相手がチンピラではなく善良な市民というところも実にアメリカらしいですね。桃井かおりがちらっと出てきたり、アメリカ南部という独特の雰囲気をもった場所を舞台に選んだりと、日本からアメリカに舞台を移しても全く違和感なくすっとしみこんでくるようなストーリーに仕上がっていたと思います。ただ、やはりラストシーンは日本版が素晴らしすぎたため、リメイクはちょっと物足りなさが残りました。日本版と同じようにしてしまうとアメリカではちょっと不自然になるのだろうと思いますが、やはり私も日本人なので、あの何も言わずにそっと妻の肩を抱いて家に入っていく高倉健に涙しますし、憧れてしまいます。とはいえリメイク版も、オリジナル版を尊重し敬意を払って作られたことがよく分かるとてもいい作品だったと思います。日本の名作が世界でも認められていることが分かってとても嬉しかったです。